ドーバーの絶壁

MUSICとLITRATURE

Haward Goodall著、夏目大訳『音楽の進化史』

先週、池袋のジュンク堂にて大変面白い本と巡り会った。

”はじめに”という導入部分の、以下の引用文を読んで欲しい。

音楽の歴史はまだ続いている。これからも誰かの創意工夫、新たな発見によって音楽は変革されていく。次の大きな飛躍がどこで起きるかはわからない。北京の目立たない裏通りかもしれないし、イギリス、ゲーツヘッドの地下室かもしれない。モンテヴェルディモーツァルトモータウン、マショー、マッシュアップ・・・どういう音楽であれ、それに使われている技法は偶然生まれたものではない。必ず、最初に考えだした人がどこかにいたはずである。私がこれから語る音楽の物語を読む際には、まず、頭の中から現代の常識を追い払って欲しい。そして、今、私たちが当たり前のものだと思っている数々の技法がまだ生まれたばかりだった頃のことを想像してみて欲しい。当時の人は、どれだけ驚き、戸惑ったっだろう。また、どれだけ喜んだだろう。

 もうこの部分だけで、このイギリス人のクラシック作曲家が書いた本の虜になってしまった。音楽の歴史の本を読む最大の楽しみ、意義のようなものが見いだせた

 

この本の原題は『The Story of Music』で、その名の通り、音楽の発展・剽窃・流布の歴史を物語として描いたもの。BBCのテレビシリーズとして放送もされており、あくまで一般の音楽愛好家に向けて書かれているだけあって、専門用語も極力控えめだ。例えば、ソナタ形式についてくどくどと説明するようなことはしない。なぜなら、「ひどく退屈だから」(笑)

 

本人がクラシック作曲家なだけあって、現代におけるクラシック音楽のポジションについては少々愚痴がこぼれている。昔の作品にスポットライトが当たりすぎて、新鮮な風が吹かないことを嘆いている。作者によると、クラシック音楽の新作が最も輝いているジャンルは映画音楽だそうだ。これには納得。

 

僕が最も強く感じたことは、音楽に対する考え方が、時代にいかに左右されているかということ。個人的な経験だが、大学時代にインターネットや様々な本に触れて、「音楽の世界を国境やジャンル分け隔てなく、自由に泳いでいきたいなあ」と素直に感じたことがあった。

 

普段はクラシック音楽なんて滅多に聴かないという人でも、PopsやRock、EDMに比べてクラシック音楽や各国の民族の音楽の価値が劣る、という考えの人は少ないだろう。どの音楽にもそれぞれの価値があり、それらは尊重されるべき、という考えは、正しく今私たちが生きる時代の価値観を反映したものだと思う。

 

クリック一つで様々な音楽にアクセスできる現代だからこそ、音楽の歴史を広く知りたいと思うことは自然な欲求だ。この本はその欲求を満たし、更に高めてくれる。我々は何と幸せな時代に生きているんだろうか、とため息が出る。

 

 

音楽の進化史

音楽の進化史