ドーバーの絶壁

MUSICとLITRATURE

ラフォルジュルネ2014東京でラフマニノフとベートーヴェンを聴いた〜その1

先日は久々の投稿で日本文学史における不朽の名作、漱石大先生の『明暗』を、「会話文の凄さ」という観点から取り上げた。まあしかし、これは完全に筒井康隆『創作の極意と掟』の影響を受けている訳で、この小説の魅力の極々一端に過ぎないんだろうなと思う。その『創作の極意と掟』も、アイデアの多くはデイヴィット・ロッジ『小説の技巧』という本に依っている。”面白い作品に巡り会ったらそのルーツを辿ろう〜”ということで、現在はこちらのネタ本を貪り読んでいる。イギリス文学の教授であり小説家でもあるデイヴィット・ロッジが、文学作品上のテクニック、表現の多様性について、極上のネタを与えてくれる。こういう面からイギリス文学にアタックしていくのも面白いかもしれない・・・と小説の話題はここまでにして、最近の僕のゴールデンウィーク中最大の楽しみである、ラフォルジュルネに行ってきた話を。

 

ラフォルジュルネとは、フランスのナントで毎年開催されているクラシック音楽のフェスティバル。演奏時間は短いが、一流のアーティストの演奏が格安で、朝から晩まで楽しめるという、クラシックファンにとってはたまらないイベント。日本でも真似して開催してみたら大当たりして、今年で10回目、東京・金沢・新潟、滋賀でも開催されている。

 

東京公演の会場は東京国際フォーラム。学会のシンポジウムからロックのコンサートまで幅広い催し物が行われている(フランツフェルディナンドのLIVE楽しかったなあ・・・)。今回、僕が観たのはホールAでの最終日、

の2公演。率直に感想を書くと、”いやあ、やっぱりクラシックっていいですねえ”の一言に尽きる。この感慨を誰かと語り合いたいのだけれど、如何せん僕の周囲にはゴールデンウィーククラシック音楽に費やそうという人々が居ないので、一人で浸るしかないのがちょっと残念。なのでこのブログに感想をアップします。

 

f:id:hiro_sound:20140507085032j:plainRemi Geniet

 

まずはレミ・ジュニエのラフマニノフ3番。ラフマニノフと言えば2番のピアノコンチェルトが屈指の名曲として知られているが、こちらの3番も負けてはいない。今日び演奏されるピアノコンチェルトの楽曲の中では、恐らく最高難易度の曲に挙げられる。もうこの曲の3楽章を聴く度に、頭の中のアドレナリンが一気に噴出する感じ、未聴の方はぜひ味わって頂きたいと思う。ソリストはレミ・ジュニエという若手のピアニストで、実に嘆声な顔立ち。時代が時代なら、宝石の詰まった手袋が客席からびゅんびゅん投げ入れられていただろうなあ。第一楽章は物憂げなメロディーから始まるのだが、タッチが非常に優しい・・・というか優しすぎる。弱音でここまで粒を揃えられることは素晴らしいんだけど、自分が思い描いていたラフマニノフの3番とは大分イメージが異なって、カウンターパンチを食らってしまった。

 

実は、この公演は本来別のソリストが演奏する予定だったのだが、急遽来日がキャンセル。そこで、前日に同じ曲を演奏しているレミ・ジュニエに、「曲目は同じなんだからあなたぐらいでしょ、弾けるのは」というノリで(恐らく)日の目が当たった。これは非常にやりにくかったんじゃないかなあと思う。そもそも、この恐ろしい難曲を2日連続で、しかも違うオケとやるというのは何ともファンタスティックな悪夢だったんじゃないかなあ。

 

オケとは所々噛み合ないところがありつつも、淡々と楽曲は進んでいく。このままだと「線が細い感じだな、上手だけれど」という印象で終わったんだけれど、最終楽章のラスト直前、コーダに入る前の美しい演奏はまさにロマンティックで、心揺さぶられてしまった。オケともバッチリ合っていたし、それまでの緊張感が解放されるよう・・・そうだ、レミ君は解放されたのだ。これからどうなっていくか、非常に楽しみなアーティストとなりました。

 

そろそろ仕事へ行く時間なので、ラフォルジュルネの感想はここまでが前編、ということで、一端幕を下ろそうと思う。